世界中の宝石を狙う「ピンクパンサー窃盗団」。
彼らを扱う書籍は、英語とフランス語で各1冊ずつのみしか確認できません。
そのくらい謎だらけです。事件の規模の割に不思議ですね。なんで?
本記事から続く一連のシリーズは、可能な限り「ピンクパンサー」についての理解を深めようという試みとなります。
注意点
調べるにあたって、注意すべき点が2つありました。
1. 単一の組織と思い込まない事
2. メディアや警察による誇張があり得る事
ちょっと説明しますね。
1. 単一の組織と思い込まない事
ピンクパンサーはピラミッド型の組織構造を持っていません。
マフィアやギャングでよく見られるファミリーやそのボスがおらず、3~10人くらいのグループが犯行の度に離合集散しています。
○○組の幹部、といった肩書きがないということですね。
秘密結社のようなものを想像している限り、ピンクパンサーの実態にはたどり着けないと感じました。
2. メディアや警察による誇張があり得る事
「ピンクパンサー窃盗団」の定義は極めてあいまいです。
似たタイプの犯人が、似た手口を使うグループ。それをとりあえずピンクパンサーと呼んでいる感じがあります。マスコミだけでなく捜査機関もです。
ホントは偉そうに指摘したくないんですが…この観点だけは持ち続けたい。
ピンクパンサーを、実態以上に大きな組織だと勘違いしたくはないのです。
「ピンクパンサー窃盗団」の発祥
ピンクパンサーの発祥は、セルビアとモンテネグロの元兵士と言われています。
旧ユーゴスラビア紛争で従軍経験のある人々が、国内の経済状況悪化によってギャング化したということですね。
ここまでは犯罪集団の成り立ちでよくあることです。
彼らの特徴は、強盗のために国外へ出張するところにあります。
これは彼らなりの「出稼ぎ」と言ってもいいでしょう。稼いだ金は地元で洗浄し、豪遊したり投資したりしているようです。
活動範囲
ピンクパンサーの活動範囲は主にヨーロッパですが、アメリカやドバイ、オーストラリア、シンガポール、そして日本も標的にされました。
彼らは宝石類を好んで狙うため、おのずと経済先進国がメインターゲットになりました。
画像:白地図専門店様より。筆者加工。赤色が被害を受けた国。
ピンクパンサーの活動は1999年から始まったとされています。
有名になったのは2003年、ロンドンの強盗事件がきっかけでした。
犯行の手口
ロンドンの高級宝石店「Graff」。
変装した犯行メンバーの一人が店員と会話をしていた時のこと。
彼は突然クロムメッキの拳銃を取り出して叫びました。
「伏せろ!」
続いて外で待機していた男が突入し、ハンマーでショーケースをぶち壊します。
犯行は3分で完遂されました。
後に犯人は3人いたことが判明します。実行犯2人と、旅程の手配をした男1人。いずれもセルビア人とモンテネグロ人です。
これがピンクパンサーの典型的な手口です。
以降、類似の特徴を備えた事件は「ピンクパンサーの仕業だ」と囁かれるようになります。
ただし前述したとおり、犯人の手口と国籍に依拠した識別法は、必ずしも実態を映しているとは言い切れません。
名前の由来
ググれば誰でも知れちゃうことですが、「ピンクパンサー」という名前で呼ばれるようになったのは本事件が最初です。
犯人の1人が家宅捜索を受けている時、盗まれた宝石のひとつがスキンクリームの瓶から見つかりました。
これはコメディ映画『ピンクパンサー』の劇中で見られた隠し方だったため、ロンドン各紙はこぞって犯人たちを「ピンクパンサー」と呼ぶようになったといいます。
それがインターポールにまで広まって、公式の呼称になってしまいました。(けっこうカジュアルなんですね)
窃盗団の今
インターポールによると、ピンクパンサーは1999年~2015年の間で少なくとも380件の強盗をはたらき、3億9100万ドル分の宝飾品を奪ったとされています。
2010年頃には、中核のメンバーは20~30人、ネットワーク全体を含めると約200人が活動していると言われていましたが、現在は不明です。
彼等は今どうしているのでしょうか?
直近の例だと2022年のTETAFマーストリヒトというアートフェアの襲撃犯が、ピンクパンサーだという指摘がされています。
ただし新しい事件であればあるほど、犯人がピンクパンサーであるかの精査が不十分だと考えられます。
少なくとも確かなのは、ピンクパンサー包囲網が狭まり続けており、彼らは昔ほど活動できなくなっているということです。
今回はこれで終わりです。
次回以降は、もうちょっと細かく踏み込んでいきます。
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