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【用語解説】犯罪者プロファイリングとは?どんな方法が使われているのか

犯罪者プロファイリングとは

ドラマや映画で見かけるプロファイリング。

「犯人は30代の独身男性。現場の近くに住んでおり汚れた車を所有している。体格はやせ型。精神病院への通院歴があり近所とのトラブルが絶えない」

このように事件現場を見ただけで犯人についての推論を展開する手法です。過去には犯人の服装まで言い当てた例も。

では、実際にどんな方法でプロファイリングは活用されているのでしょうか?プロファイリングの種類と使い方についてお伝えします。

犯罪者プロファイリングの始まり

プロファイリングが本格的に研究されるようになったのは1970年代のこと。FBIのロバート・レスラーがその火付け役として有名ですが、同じくFBIアカデミーでゼミを開いていたハワード・テテンが全米から集めた捜査資料を見て着想したのがきっかけです。

テテンは「犯行現場の情報から犯人の特徴や動機が推測できる」という前提のもと、1973年の「スーザン・イェーガー事件(ミシガン州の誘拐事件)」にプロファイリングを適用し成功させました。

その後、レスラーが犯罪者へのインタビューを繰り返して、プロファイリング技術を向上させていくことになります。

しかし実は、もっと昔から犯罪者のプロファイリングは行われていました。

最古のプロファイリングは1888年の「切り裂きジャック事件」にて医師トマス・ボンドが行ったもの。彼は次のように犯人像を推定しました。

犯人は一見穏やかな感じの中年の男性で、身なりはきちんとしている。いつも、マントかオーバーを羽織っている。犯人は孤独である。彼の周りの人々は彼がいつ精神に異常をきたすのかと思っているが、トラブルを恐れて警察に通報していない。犯人は異常性欲者で性的な興奮から犯罪を犯している。

引用:越智啓太「犯罪捜査の心理学」新曜社

切り裂きジャック事件は未解決であり、このプロファイリングが的中しているかは不明です。それでも現代のプロファイラーの多くがボンドと同じ結論に達していると言われています。

発展したFBI方式のプロファイリング

秩序型と無秩序型

レスラーが犯罪者との面談を繰り返し、いわゆる「FBI方式」と呼ばれるプロファイリングが確立されました。

FBI方式は犯人を秩序型と無秩序型の2タイプに分類し、それぞれの特徴を以下のようにまとめています。

秩序型と無秩序型

これは経験や勘だけではなく、精神医学的、臨床心理学的知見を背景としています。よって、FBI方式が最も効果を発揮するのは犯人の精神病理やファンタジー(空想)が反映された特異的な事件です。

かつては犯罪が起きても、多くは知人間のトラブルに基づくもので犯人への道のりはそう遠くはありませんでした。しかし近代化に伴って被害者と加害者の関係が希薄な事件が増加。ゾディアック事件のような異常に見える犯罪も顕在化してきました。

プロファイリングは被害者と犯罪者の関係が希薄な事件にも対応可能という長所を持っており、時代にマッチした捜査手法のようにも思われました。

FBI方式の弱点

残念ながら現代の科学的視点からは、FBI方式のプロファイリングは決して少なくない弱点を抱えています。

まずは良くも悪くも職人芸であること。FBI方式は「サイエンスではなくアートだ」とよく言われますが、まさに現場の情報を正確に分析するにはセンスと経験が必要不可欠です。

実際の運用には上の表のような対応関係だけでは到底足りず、その場で臨床心理学的&精神医学的な考察をしなくてはいけません。誰もが同じ現場から同じ結論を導き出せる訳ではないという意味で非科学的な手法と言えます。

そして多くの犯人は秩序型と無秩序型の中間部分に位置しています。純粋な秩序型、無秩序型はあまりいません。

混合型のイメージ

FBIはこれを混合型と呼んでいますが、混合型が多数を占めてしまえば分類は意味をなさなくなってしまいます。

現実にはFBIのプロファイラーが現場でプロファイリングを行うことはまれで、全業務の10%程度と言われています。もともとFBIが出動すること自体が珍しいことであり、犯罪捜査の中心的存在とまではなりませんでした。

世界的に受け入れられているのは、次に述べるリヴァプール方式です。

イギリス発祥のプロファイリング、リヴァプール方式

リヴァプール方式のプロファイリングは統計的な手法に終始します。経験がものをいうFBI方式と比べ、データさえ手に入れば誰でも同じ結論に達するという点でより科学的と言えます。

1985年、ロンドンの心理学者デヴィット・カンターが犯罪捜査の援助要請を受けたのが始まりです。彼は膨大な過去の犯罪データの統計から犯人像を推測。逮捕された犯人はまさにプロファイリングどおりの人物だったとされています。

リヴァプール方式のプロファイリングをひと言で説明するのは難しいですが、メインとなる3つの分析は欠かせません。

①犯行テーマ分析
②地理的プロファイリング
③事件リンク分析

1つずつ解説します。

①犯行テーマ分析

犯行テーマとは、犯人の行動の背後にあるテーマのことです。

犯行のテーマは犯人の属性(年齢、性別、職業、居住形態など)と相関関係があるとされており、テーマを明らかにすることは犯人へ近づくための手がかりとなります。

例えば被害者を人間として扱わない「非人間性」、暴力が目的となる「暴力性」などがテーマであることが分かれば、それに対応した人物像を想定することが可能です。

犯行テーマは多くの犯行中の行動データを統計にかけることで浮かび上がらせることができます。ここで使われる統計は、コンピュータに入力した行動が平面上に表示される方法です。同一犯が行いやすい行動ほど、平面上の距離が近く表示されます。

平面上に表示された行動

放火事件なら火をつける対象が自転車や倉庫なのか、住宅そのものなのか等のあらゆるデータを入力します。すると平面上に「まとまり」が生じ、それらをグループとして犯人のテーマを想定することができます。

平面上に現れた犯行テーマ

こうして得られた犯行のテーマから、犯人の属性を推測します。放火犯の場合は以下のような仮説が得られています。

テーマ:「放火は復讐や金銭的利益の手段である」

自宅から離れた場所に放火する
テーマ:「放火自体でストレス発散や興奮を得る」

自宅近くに放火する

以上がリヴァプール方式における犯行テーマ分析の解説です。お分かりのように過去の犯罪データが豊富であることが分析の条件となります。コンピュータによる統計処理が中心であるため情報さえ手に入れば誰でも同じ結論にたどり着くことができる点で、FBI方式と大きく異なると言えるでしょう。

ただし統計に頼る手法には限界もあり、データベースにない新たな犯罪が分析できないという欠点がリヴァプール方式には存在します。

②地理的プロファイリング

リヴァプール方式における、もう1つの捜査支援テクニックです。犯行現場を地図上にマッピングした上で犯人の拠点(住宅など)がどこにあるのか推測します。

犯人は土地勘のある場所で犯行を行うという仮定に基づけば、連続した犯行現場は同時に犯人の生活圏と重なるはずです。

単純な例としては、円仮説(サークル仮説)があります。これは複数の犯行現場で最も離れた2地点間の距離を直径とする円の中に、犯人の住居と全ての犯行現場が収まるという仮説です。

円仮説イメージ

カンターの調査によれば、性犯罪者の87%でこの円仮説が成り立っています。ただし円が大きくなると捜査の役に立たないなど、単純ゆえの短所があるのも事実です。

円仮説より精度を上げた方法として犯人の拠点が円の中心にある可能性が高いという「円心仮説」、円の重心にある可能性が高いとする「重心仮説」が提唱されています。しかし残念ながら、これら「円」の仮説はそれほど高く評価はされていません。

比較的多くの研究者に受け入れられている方法は「確率距離法」というもの。

確率距離法は、犯人が拠点から離れるほど犯行頻度が減少する現象に基づいています。地図にメッシュをかけ、それぞれのブロックに犯人の拠点が存在する確率を記していく方法です。

このように地理的プロファイリングは様々な手法が考案されていますが、共通する大きな課題があります。

それは同一犯による複数の犯行が必要であること。単発事件には応用困難です。さらには多数の事件の中から同一犯によるものを正確にピックアップしなくてはいけないという難しさもあります。別の犯人による犯行が混ざったり、未知の犯行という暗数が存在していると地理的プロファイリングの制度は低下していきます。

これは地理的プロファイリングだけではなく犯行テーマ分析にも共通の課題です。「同一犯による犯行を漏らさず正確にピックアップできるか」は、リヴァプール方式における大きな問題と言えます。

そこで鍵となるのが、最後にご紹介する「事件リンク分析」です。

③事件リンク分析

 「一連の犯行は同一犯によるものである」と推定するための方法が事件リンク分析です。

最も確実なのはDNA型や指紋の一致ですが、それらの法医学的な情報がない時は各事件をプロファイリングしてリンクすることになります。基本的には犯行テーマ分析で行ったような統計を用いて事件の類似性を確認します。

リンクさせやすいのは特徴的な行動がとられた場合です。

例えば空き巣の場合、「窓から侵入する」という手口のみでは多くの犯人が該当してしまうためリンクしづらくなりますが、「壁に落書きを残す」ような特徴的な行動があればリンクは容易です。

現実には特徴的な行動がとられることは少ないため、時間的な要素や地理的な接近性などを加え、より多方向から事件の類似性を見つけ出していくこととなります。

日本で使われているプロファイリングは?

日本ではリヴァプール方式が主流で、FBI方式は補助的に使われることがあるとされています。

主な研究機関は警察庁の「科学警察研究所」と各都道府県の刑事部にある「科学捜査研究所」の2つ。後者の方がより現場に近い存在として捜査の援助をしています。

従来は精神病理が反映された犯行についての研究が盛んでしたが、日本の犯罪の大多数を占める窃盗事件でもプロファイリングが可能となるよう、研究が進んでいる動きもあります。

 

現実での犯罪者プロファイリングはフィクションのように華やかではありませんが、捜査の補助としてしっかり貢献するものです。より効率的に、より正確に犯人へたどり着けるように現在も多くの研究が続いています。探究していく価値のある、非常に興味深い分野ではないでしょうか。

 

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