こっそりと鍵を盗んで、急いで鍵屋に向かい、こっそり戻す。これは多くの犯罪に利用されてきた、昔からの合鍵の作り方です。
では鍵を盗まれさえしなければ安全なのでしょうか?
今やそれでは足りない状況にあると言えます。盗まず、鍵屋にも行かず、堂々と合鍵を手に入れる方法があるためです。
手口はいたってシンプルで、必要なのは多少の知識と悪意だけ。
その一方で、多少の知識があれば防げる手口でもあります。
帰宅したら見知らぬ男と対面
知らぬ間に作られた合鍵
ある夜の事。1人暮らしの女性が帰宅すると、部屋には見知らぬ男が——
まるでホラー映画のワンシーンですが、これはフィクションではなく実際に起きた事件です。不幸中の幸いか男は何もせずに逃走。その後逮捕されました。
犯行の動機は「私生活を見たかった」。身勝手な動機の一部は、不覚にも達成されてしまったことになるでしょう。
この男の侵入手口は、合鍵を使った正面突破。複製されては防犯性能の高い鍵も意味がありません。
では、男はどうやって女性が持っていた鍵を複製できたのでしょうか?鍵は盗まれても形どられてもいません。この離れ業を可能にしたのは、鍵が持つ「ある情報」でした。
鍵番号=設計図
鍵には番号が刻印されています。この番号はそのまま鍵の設計図としての機能を持っています。
画像引用:GOAL online
鍵を無くした時に備える、家族に渡す等の理由で合鍵を作る場合、鍵番号をメーカーや鍵屋に伝えると同じ鍵を手に入れることができます。
もうお気づきかもしれません。侵入した男は、女性の鍵番号を盗み見てネットで複製を依頼していたのです。
男は事件前に管理会社を装って女性宅に訪れ、鍵番号をメモしていたといいます。鍵に詳しい人でなければ、これだけで事件の被害者になるとは想像だにしないでしょう。
なぜネットで鍵が複製できてしまうのか
ネットでの複製サービスは、ディンプルキーのように店頭では複製困難な鍵の登場とともに発展しました。
従来の鍵であれば町の鍵屋であっという間に複製できましたが、ディンプルキーは非常に精度が高い凹凸を持つため、そう簡単に複製できません。そこで登場したのがネットでメーカーに鍵の複製を取り次ぐサービスです。実店舗が少ない地方でも利用できる等、多くのメリットが挙げられます。
メーカーから直接注文者に送付される場合もあり。
残念ながらその手軽さは犯罪者に利用されてしまいました。
ディンプルキーができる前は、狙った相手の隙をついて鍵を盗み、急いで鍵屋を訪ねて複製する手口が主流でした。(困ったことにこの手口は現在でも現役です。)
鍵番号をもとに複製を依頼できるようになってからは、鍵そのものを盗む手間が省けてしまったことになります。
SNSに載せた写真からも複製可能
今回ご紹介した事件は直接に鍵番号を見たケースです。しかし理論上は鍵番号が映った画像さえあれば複製可能です。例えばSNSにアップした写真。片隅に鍵が映っていれば、複製を狙うことができてしまいます。
自撮り写真、飲み会の記念写真、お気に入りのキーホルダーの写真とともに、鍵を映してしまったことはないでしょうか。これはかなりリスキーな行為です。心当たりがあれば、早めの削除をお勧めします。
複製を防ぐためのアナログとデジタルな方法
物理的に隠す方法
鍵番号を隠してしまうのがお手軽な方法です。見せない心掛けも大切ですが、カバーで覆ってしまえば盗み見のリスク低下につながります。
画像引用:ミスターミニット
より厳重な本人確認
基本的にはどの業者で複製するにも本人確認が必要ですが、なりすましを100%防ぐのは困難です。さらに本人確認が甘い、モラルの低い鍵屋による被害も十分あり得ます。
そこでメーカーではIDカードを鍵と同時に発行し、カード番号がなければ複製を受け付けないものも販売しています。
画像引用:美和ロック PR(-J)シリンダーに付属するIDカード
もちろんカードのID番号は見られないように隠しておく必要があります。持ち歩かず家に保管する等、厳重な管理が必要となるでしょう。
また、持ち主の印鑑やその他の書類等もなければ複製を受け付けない商品も。メーカー側もなりすましを防ぐために工夫を凝らしています。
安全とお手軽さは基本的にトレードオフです。なりすまし複製を防ぐ鍵はそれだけ高価になりがちですが、選択肢の1つとして知っておいても良いかもしれません。