ブラックマーケット調査

・・・すこし手直し中・・・

沈没船マラビーヤス号と海底の財宝


マラビーヤス号のイメージ図 © Allen Exploration

 

バハマ沖に眠る宝

カリブ海の島々からなるバハマは、世界有数の海底資源を有している。

それも石油やガスなどの天然資源ではなく、莫大な数の金、銀、財宝が海底に眠っている。素晴らしく夢のある話ではないだろうか。

バハマは地理的に岩礁が多く、数多くの船が宝を抱えて沈んだ。多くは1500年代以降の船だが、それ以前の船も沈んでいるかもしれないという。

難破船産業が確立されれば10億ドル規模にのぼるとも噂されており、政府の取り組み方次第では国の借金を帳消しにできるかもしれないとの声もある。

 

近年注目されているのは、マラビーヤス号というスペインのガレオン船(帆船の1種)。「南半球で最も価値のある難破船」とも呼ばれ、1654年にアメリカ大陸の宝や貴族の調度品を抱えて沈んだ船である。

2020年、バハマ政府はあるトレジャーハンターにサルベージ・ライセンスを与えた。

それが探検家カール・アレン(Carl Allen)が設立したAllen Exploration社、通称AllenXである。AllenXは遺物保護のために歴史的な難破船の発見を専門としている。

マラビーヤス号は300年以上の時の中で、嵐や乱暴な発掘によって散り散りになったと思われていた。しかしAllenXは科学的アプローチによりハリケーンによってどのように残骸が散らばったのかを分析し、海底から数々の財宝を見つけ出すことに成功している。


© Nathaniel Harrington / Allen Exploration

例えば、長さ6フィートの金のチェーン。

ロゼット細工が施されたこのチェーンは、王室もしくは貴族の注文により製造された可能性が高い。金製品は溶かされて別の物に姿を変えてしまうことが多いため、貴重な存在だという。


© Nathaniel Harrington / Allen Exploration

こちらは十字架をあしらった金のペンダント。

中にベゾアール石という治癒効果をもつと言われていた貴重な石がはめ込まれている。ちなみにベゾアール石はヤギの胃からとれる結石のこと。毛や難消化性の繊維からなる石であるが、非常に高価なものとして知られていた。


© Nathaniel Harrington / Allen Exploration

このエメラルドはコロンビア産のもの。周囲を縁取る12個のエメラルドは、12使徒を示していると考えられている。

 

バハマ海域の難破船は、全てがバハマ政府の所有物である。元来から文化保護のために活動していたAllenXは、2022年8月8日にオープンするバハマ海事博物館のスポンサーとして、公共の利益のために遺物を保管している。

 

マラビーヤス号の最期

マラビーヤス号は36門の青銅製大砲を装備した、スペイン製のガレオン船である。スペイン語表記ではNuestra Señora de las Maravillas(奇跡の聖母)となる。アメリカで貴族の財産などを受け取り、スペインのセビリアまで運ぶ役割を任されていた。

 

1654年の7月10日にスペインを出航し、8月22日にコロンビアに到着したマラビーヤス号は、銀の受け渡しを待っていた。しかし銀を届ける予定だったコンセプシオン号が10月27日に沈没してしまった。

これは予想外の遅延を引き起こした。ハリケーンを避けるため、マラビーヤス号はコロンビアのカルタヘナで待機を続けることになってしまう。

引き上げられた銀を受け取ったマラビーヤス号はようやく帰路につくが、スペインへの帰還は叶わなかった。

 

当時、ヨーロッパとアメリカ大陸を結ぶ船は、未開拓の岩礁地帯であるバハマ海峡を通らなければならなかった。

その海峡にてコンセプシオン号の旗艦と衝突し損傷を受けたマラビーヤス号は、岩礁に激しく衝突して沈没した。1656年1月4日の夜のことであった。

船には650人の乗員がいたが、大半は漂流物にしがみついたまま海に消えた。そして約150人は夜の海にさらされるか、サメに食べられるかして死亡したと言われている。

生還したのはわずか45人。悲惨な事故だった。

 

沈んだ船体は嵐と盗掘によってその形を失い、今では13kmにわたる残骸と化している。

それでも価値の高い遺物の宝庫でありつづけているのは、さきのアレンによるサルベージが示している通りである。

 

サルベージはマラビーヤス号の別の一面も暴くことになった。スペイン行の荷物に登録されていない、コロンビアで採れたアメジストとエメラルドが船内から発見されたことにより、密輸船としての顔も持つことが分かったのだ。

アメリカ大陸から戻ってきたスペインのガレオン船は、申告されたものより少なくとも20パーセント、時には200パーセントも多い密輸品を運ぶことが珍しくなかったという。密輸は国技であった。

 

海底から見つかったのは貴金属だけではない。当時の乗組員が使っていたとみられるパイプや陶磁器のような個人の持ち物も発掘された。

アレンにとってはこの日用品こそが、スペインの黄金時代末期の生活を想像させてくれる貴重な宝物であるという。

 

マラビーヤス号は、スペインの歴史における重要な時期のや日常生活、アメリカ大陸のメキシコ、コロンビア、ペルー、ボリビアとの植民地関係を知る上でのカギとなることが期待されている。

 

トレジャーハンターたち

宝の山が眠る沈没船が狙われないはずはない。マラビーヤス号が沈んだ1600年代のうちからトレジャーハンターたちによる盗掘が始まった。

1657年、ある船長イリアーテは引き揚げた金塊を隠したとして絞首刑に処された。

1661年、2人の人物が回収した100万ペソを申告しなかったとしてスペイン王室に提訴された。

乱暴かつ違法なサルベージは、なんと1990年代まで続いた。約3世紀にわたり、マラビーヤス号からは350万個近い品々と相当な数の銀が盗まれたとみられている。

壮絶な最期をとげた船は荒れ果て、トレジャーハンターの遊び場となっていた。

 

バハマ政府はこれを見過ごすわけにはいかなかった。違法サルベージは資源の略奪と同義でもあったからである。

いち早く真っ当な企業にライセンスを与え、財宝の流出を防がなければいけない。AllenXとの契約は経済的な戦略でもあった。

しかし、契約に当たってバハマ政府とAllenXとの間でいくらかの衝突があったことも事実である。

もともと引き揚げられた宝は75:25でAllenXに半分以上の取り分がある予定だったが、バハマ司法長官による発言が争いの火種となった。この取り分を逆転させるというのである。

AllenXは当然抗議した。カール・アレンは「我々のビジネスは現金を燃やして暖をとるようなものではない」と発言した。

 

政府とトレジャーハンターの衝突は珍しいものではない。

コロンビアの政府とサルベージ会社グロッカ・モルダは、沈没船サン・ホセ号をめぐって50:50の取り分を予定していた。

しかし政府は25:75で政府の取り分を多くするプランを発表。グロッカ・モルダも負けずに掌を返した。

「おっとすまない、実を言うとなんにも見つからなかったんだ。ま、悪く思わないでくれよ。」

140億ドル以上の財宝を積んだ船をめぐるこの争いは、現在も続いているという。

 

そもそもトレジャーハンターは常に大きな負担を背負っている。

サルベージにかかる費用は探索、回収、保存と多岐に渡る。そして引き揚げた物に本当に価値があるかは鑑定次第だ。

仮に取り分が75%だったとしても、差し引き5%~10%程度しか残らない。取り分が25%に減れば、5%すら残らない可能性がある。

この事情を知る人々から、バハマ司法長官の提案は到底受け入れられないと反発が相次いだ。

幸いなことに、司法長官の発言は決定事項ではなく、かつ割合を逆転させるまでのつもりはないとの釈明が出された。

 

実際に政府とAllenXの間でどのような契約が結ばれたのかはわからない。ただ、政府としてはサルベージ事業が「地下に潜る」ことが最も恐れることであるため、政府が譲歩したのではないかと思える。

 

AllenXの科学的かつ考古学的な活動は、当時の黄金時代のスペインの文化を浮き彫りにする。違法サルベージによって失われていた歴史を再構築し、ようやくマラビーヤス号の謎に正面から向き合うことができる。

バハマ政府が調査に前向きになったおかげで、同じくバハマ沖に沈んだ船たちの探索も進むかもしれない。

しかし海は挑戦者にとって恐ろしいほどに広い。

バハマで船を探すのに一生を費やしても、そこにあるものの表面を削ることしかできない」とアレンは語っている。

 

 

あとがき

財宝のサルベージについては事前知識が全くなかったため、特に私から説明できるようなことはありません。関連した犯罪組織やブラックマーケットについてもあまり情報がないようです。

社会問題として認識されているのは、沈没船の財宝を狙ったものではなく、世界大戦前後で沈んだ軍艦の違法サルベージのようです。こちらは単純に鉄資源を狙っているみたいですね。

記事の中でも扱いましたが、サルベージにはかなりの資金力を必要とします。犯罪組織が最小の努力で最大の利益を、と考えるかぎり選択肢には入らないのではないかと思います。

密輸や古美術売買のコネを持たないグループがしょうがなく鉄資源を狙うのかなと。あくまで私のイメージですが。

難破船というものは犯罪と関係が深くはありませんが、世界にはまだまだたくさんの船が宝と共に沈んでいるようです。これはこれで興味深い分野ですね。

 

参考

https://www.bahamasmaritimemuseum.com/maravillas

↑ バハマ海洋博物館の公式ページです。広くわかりやすい解説があり、アクセスやチケット販売もあります。

https://www.theguardian.com/science/2022/jul/31/after-350-years-sea-gives-up-lost-jewels-of-spanish-shipwreck

https://www.livescience.com/bahamas-shipwreck-gold-jewels

https://www.smithsonianmag.com/history/inside-the-race-to-preserve-treasures-from-a-legendary-17th-century-shipwreck-in-the-bahamas-180980492/

https://www.fox10phoenix.com/news/sunken-jewels-buried-treasure-uncovered-in-the-bahamas-from-iconic-17th-century-spanish-shipwreck

https://www.bahamaslocal.com/newsitem/18593/Govt_seeking_to_cash_in_on_shipwrecks.html

https://thenassauguardian.com/treasure-hunting-and-money-splits/

http://www.tribune242.com/news/2013/mar/08/treasure-salvaging-can-wipe-out-national-debt/

https://www.bahamaslocal.com/newsitem/278542/Treasure_share_must_favour_us.html

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