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・・・すこし手直し中・・・

「ドーナツ買うよ」福岡市6歳女児誘拐はなぜ止められなかったのか

事件記事

 「ドーナツ買うよ」

甘い言葉で6歳の女児を自宅へ連れ込んだ無職・宮口俊彦容疑者(56)。

女児は危害を加えられずに開放、容疑者は逮捕され事件は無事に解決しました。

……が、しかし。この事件はある映像の存在により、大いに人々の反響を呼ぶこととなります。

その映像には、自宅へ向かう容疑者と、後に続く6歳女児の姿がありました。防犯カメラが、2人の姿を捉えていたのです。

白昼堂々の犯行。宮口容疑者は人目を恐れなかったのか。
どうして女児はついて行ってしまったのか。

異様な光景に疑問は尽きません。

 

なぜ、宮口容疑者による女児誘拐は止められなかったのか?

本事件の疑問を解決しつつ、日常に潜む児童誘拐の危険性を考えます。

 

本事件の経緯

本事件は、9/16の16時ごろに起きました。

福岡市東区の商業施設にて、宮口容疑者は6歳女児にお菓子を買い与え、その後同区内の自宅へ招いたとされています。

誘惑の言葉は「ドーナツ買うよ」。1人で歩いていた女児は、この甘言により宮口容疑者について行くことになりました。

その後、宮口容疑者の自宅内で1時間ほどアニメを見るなどし、「次のピアノ教室は何曜日?また会おうね」と再会をほのめかしつつ別れたといいます。

その一部始終は、宮口容疑者宅であるマンションや街中に設置された防犯カメラに撮影されていました。映像からは、宮口容疑者と後に続く女児の姿が確認できます。

10/1、宮口容疑者は未成年者誘拐の疑いで逮捕されました。逮捕に至った経緯として、ある報道では防犯カメラの映像が決め手と言われています。

女児にけがはありませんでした。

本事件について宮口容疑者は、「女の子を連れている姿を誰にも見られなかったので、自宅に連れて行った」と供述しています。

 

防犯カメラの映像

本事件が衝撃的である理由の1つに、公開された防犯カメラの光景が挙げられます。では、事件の一部を捉えた防犯カメラの映像をご覧ください。

こちらは動画です。

youtu.be

以下は静画です。

防犯カメラの映像
歩道を通る2人。道路には車の往来がある

防犯カメラの映像2
容疑者マンションの防犯カメラの映像。カメラの存在は知っていたのではないか
画像引用:FNNプライムオンライン

白昼堂々、女児を連れ歩く容疑者の姿が映し出されています。その様子からは、急いだり人目を気にしたりという素振りを伺うことができません。

「女の子を連れている姿を誰にも見られなかったので、自宅に連れて行った」と述べた容疑者ですが、動画からは車や人の往来があることがわかります。明らかに目撃はされていたはずです。

しかも、自宅マンションの防犯カメラの存在は知っていた可能性もあります。

目撃証言やカメラの映像をたどれば、容易に犯行が暴かれることは想像に難くありません。

なぜ宮口容疑者はそれでも犯行に及んだのでしょうか。その答えの1つに、容疑者の以前からの素行があります。

彼は、以前から女児への声かけを繰り返していたのです。

 

宮口俊彦容疑者の人物像

まずは近所のコンビニ店員による証言をご紹介します。

 「小学生低学年くらいの女の子と私のコンビニの店内でぐるぐる走り回ってて、男性本人はすごく楽しそうにしていて、何かおごってあげようか?と女の子に言ってて、ただ女の子はかなり遠慮がちでした」
引用:FNNプライムオンライン

次は近所の住人による証言。もとより宮口容疑者は、人目のつく場所で女児との接触を繰り返していたことがわかります。

「うちの姪っ子にお菓子とかをあげようとしてずっと話しかけていました。ちょっと変わった人だなと思って」
引用:FNNプライムオンライン

さらに容疑者本人の口からは、数十回は女児への声かけをしたことがあるとの供述がされています。

宮口容疑者にとって女児への声かけは日常の一部となりかけていたのかもしれません。

そして同時に、自分が奇異のまなざしで見られることにも鈍感であると推測されます。

宮口容疑者のこの性格特性は、以下のエピソードによっても裏付けられます。

自宅周辺には、宮口容疑者が酒に酔って暴れるなどしたため、何度も迷惑を受けたとして出入り禁止にする店もあります。
引用:FNNプライムオンライン

宮口容疑者の遵法意識は、本事件に異常性を感じる大多数の人よりは低いものと推察できます。

 

なぜ女児は誘拐されたのか

「不審者には気を付けて」「知らない人について行ってはいけない」教師や大人は口酸っぱく言うものですが、実は子供にこの判断を任せることは非常に危険なことでもあります。

子供にとって誘拐犯は、不審者でも知らない人でもない。

この視点が欠けているからです。

どんな人が不審者なのか?これを子供に聞くと、サングラスやマスクをしている人と答えると言われています。

しかし、こんな姿をした不審者はごくまれ。例えば岡山の不審者情報によれば、サングラスをかけていたのは全体の3%、マスクをしていたのは全体の1%となっています。(※1)

こと誘拐犯においては、極力目立たない(周囲から浮かない)恰好を心がけるものです。本事件の宮口容疑者の服装からもそれが伺えます。

そして子供にとっては、少しでも仲良くなった人はもう他人ではありません。優しげで親しく接してくる大人は信用してしまうものです。

本事件の場合も、誘拐された子供の判断力が低かったと責めるより、宮口容疑者の子供と仲良くなるスキルが高かったのだと考えるべきでしょう。

さらに厄介なことに、宮口容疑者は以前から女児への声かけを繰り返しています。あくまで推測ですが、女児が宮口容疑者と出会うのは今回が初めてではなかった可能性さえあります。

 ※1 小宮信夫「犯罪は予測できる」新潮新書 

 

不審者はいないという教訓

ここで本事件を通じて、僭越ながら1つの教訓を提示します。

それは「不審者はいない」ということ。

本記事を書くにあたって大いに参考としている小宮信夫教授の意見でもありますが、子供に不審者という存在を意識させることは防犯上の大きな脆弱点となり得ます。

不審者に気をつけなさいと言われた子供は、奇妙な身なりをした大人に注意を払います。その一方で、児童誘拐を企てて接近してくる、身なりの整った優しい大人には無防備となりかねません。

子供に人を外見で判断させることは、大人の危険な内面に気づきにくくさせる可能性さえあります。

誘拐犯と子供の内面の探りあいにおいて、子供に勝ち目はないでしょう。結局はだまされてついて行ってしまうのです。

 

誘拐犯から子供を守るために

では、どうやって子供を誘拐犯から守ればよいのか。その問題の解法の1つが、地理的な危険箇所の把握&回避です。

例えば、自治体が行っている不審者情報の活用。

この場合の不審者とは子供に危険なアプローチを行った者のことであり、明らかに危険な大人のことを指す言葉として有用です。そして不審者情報の発信は、周辺地域のリスクが上昇したことを意味します。

不審者の出現が地域のリスクをどの程度高めるのか?実際に調査した研究があります。

その研究によれば、声かけ等の不審者遭遇情報発生後、少なくとも1か月は周囲1kmの範囲に性犯罪のリスクが優位に上昇したとされています。※2

この研究の対象はあくまで性犯罪ですが、地域防犯や自衛のために利用できる情報であることは確かです。

他にも、犯罪者が行動しやすい危険な場所をピックアップすることも大切です。

本事件において容疑者が女児と接触した場所ははっきりしていませんが、それなりの人通りのある場所と推測できます。もしかすると、商業施設の人混みの中だったかもしれません。

人がたくさんいる場所では誘拐しづらいのでは?と思うかもしれません。しかし人混みは、誘拐犯にとってはむしろ格好の狩場となるのです。

人混みは監視の目があふれているように見えますが、実際は逆です。他人だらけの場所では、人々の注意は分散され、怪しい人物や怪しい行動がかえって見えづらくなります。

さらに誘拐犯が標的となる子供を探すのに格好の場所でもあります。好みの子供を見つけたらその場で声をかけても良いし、尾行して人気のない路地になったところで接触することも可能です。

※2 菊池城治ら「声かけなどの不審者遭遇情報と性犯罪の時空間的近接性の分析」犯罪社会学研究 第34号

 

女児誘拐はなぜ止められなかったのか。その答えは、あくまで憶測となりますが……

  • 宮口容疑者が「不審者」ではなかった事
  • 被害女児を誰の目も「真剣に」見ていなかった事

この2点に集約されるのではないでしょうか。

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