ピッキングを防ぐとして広まったディンプルキー。
しかし、ディンプルキーの耐ピッキング性能は確実性を保証されてはいません。あくまで「破られにくい」というものです。
この記事では、ディンプルキーの効果をやや批判的に検証していきます。
当たり前とされていることを疑ってみるのも、効果的な防犯のためには必要なことでしょう。
ディンプルキーがピッキングを防いだのは本当なのか
ピッキングの横行とディンプルキーの登場
ピッキングは1990年代後半に急速に広まったと推測されています。耳かきのような工具を使い、ほんの数十秒で開錠してしまう手口です。
このピッキングに強いとして登場したのがディンプルキー。従来の鍵とは段違いの防犯性能が得られるようになりました。
2002年には株式会社ゴールの「ディンプルキー・V18シリンダー」が米国UL防犯規格に合格。対ピッキングの技術の高まりがうかがえます。なお、このV18は広く流通したため、お持ちの方も多いかもしれません。
画像引用:株式会社ゴール 「V18」商品カタログ
また、2005年発売の同社「ディンプルキー・グランブイ(GV)シリンダー」は、なんと1000兆を超える鍵違い数を持ちます。
ディンプルキーの効果を統計から見る
ミクロの視点なら、ディンプルキーの対ピッキング性能は確かなものです。では、それが犯罪率にどう影響したのか、マクロの視点から確認してみましょう。
まずはピッキングの認知件数の推移です。
参考:警察庁統計
警察庁統計として残されているデータは2000年以降しか見つかりませんでした。結論としてはピッキングは大きく減少し、2006年以降は全国で1000件未満、2009年には149件まで抑えることができています。
ただ、これでは以下の理由によってディンプルキーとの相関は曖昧なままです。
・ピッキング被害のピークが見えない
・ディンプルキーが浸透した時期が不明
・ピッキング法施行の影響も考えられる
2002年9月1日施行。特殊開錠用具の所持を禁止した。
2000年以前にピッキング件数が公表されなかった理由として、当時の鍵がピッキングに弱いという事実が明らかになることで、被害が拡大するのではないかとの葛藤もあったとされています。
では、2000年以前について、読売新聞が報じた東京都内の認知件数を参考にディンプルキーの効果を考えてみましょう。
読売新聞によれば、都内の被害は1996年まで年100件程度。それが1998年には1100件まで増加し、2000年には1万件を突破したとされています。
ピッキングのピークはこの2000年と考えられます。ここで、ディンプルキーの発売時期と照らし合わせるとどうなるでしょうか。
主要メーカーがディンプルキーを発売したのは1995年~1998年。しかし後の2000年にかけてピッキングの件数は激増しています。ただ、2001年以降は減少に転じました。
2000年にかけての件数激増が気になるところではありますが、これは単に手口の拡散が背景にあるとみられます。中国人の犯罪グループがピッキングを使用していたことが発覚した時期でもあり、それにより警察がピッキングの痕跡を見つける技術を発展させたことも関係すると考えられます。
ディンプルキーが世間に浸透するとともに、徐々にピッキングの認知件数が減少したとみるのが妥当ではあるでしょう。
「耐ピッキング性能=絶対に防ぐ」ではない
耐ピッキング性能の意味
対ピッキング性能とは、「ピッキングに何分耐えることができるか」を示したものです。決してピッキングを無効化できる訳ではありません。
例えば前述のゴール社製「V18」の対ピッキング性能は10分以上と認定されています。
これは定められた試験方法下で10分はピッキングに耐えられた、と言い換えることができます。逆に10分以上耐えられる保証はありません。
10分は耐えられるという性能をどう捉えるかは、個人の価値観によるところがあるでしょう。ただし、防犯の実務面からは10分耐えることには大きな意義があります。
空き巣は侵入に時間がかかることを極端に嫌がるからです。
図のとおり、侵入に5分かかると7割が、10分かかると9割が侵入を諦めると言われています。完全にピッキングを無効化することはできなくとも、時間をかけさせることによって大きな効果が期待できます。
プロの手には耐えられない場合も
ディンプルキーが想定より早くピッキングされたという情報もあります。
防犯に詳しい雑誌「ラジオライフ」の特集にて、プロの鍵屋によって多くのディンプルキーが5分以内に解錠されたという結果が示されました。(ラジオライフ「防犯バイブル2010-2011」三才ブックスより)
これはあくまで様々な鍵を知り尽くしたプロならば可能であるということを意味しており、現実的に空き巣が同等の技量を持つとは考えづらいものがあります。ラジオライフの検証が重要な意味を持つのであれば、耐ピッキング性能試験の有り方を大きく変えなければいけません。
それでも、「ディンプルキーでもピッキングを100%防げる訳ではない」という事実を再確認するきっかけにはなります。
1つのディンプルキーだけで玄関を守れるとは言い切れないため、錠前を2つ設置するダブルロックや補助錠を積極的に活用する必要性があります。
多少批判的にディンプルキーを見つめなおしましたが、ピッキング防止に一定の効果があることに間違いはないと言えます。ただし過信は禁物。家を守るには総合的な防犯設備の充実が必要です。