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・・・すこし手直し中・・・

犯罪学から見た、座間事件の「御し難さ」

座間事件の犯罪学的考察

12月15日、座間市の自宅で9人を殺害した被告に死刑が言い渡されました。

SNSを利用し自殺志願者を募ったその手口は現代社会のひずみとして受け取られ、今なお世間を震撼させています。

被告の残忍さや自殺志願者の存在は確かに異様に映ります。しかしそこに注目しすぎると、いわゆる「心の闇」を解明しようという迷宮に迷い、最悪の場合、精神病理によるエンターテイメントとして消費されかねません。

こんな時こそ犯罪学の基本に立ち戻りましょう。

あくまで類似事件の予防を理想として掲げ、いったん基本的な犯罪学の見地から座間事件の「御し難さ」、つまり厄介さを理解していこうと思います。

犯行に必要な3つの要素

効率的に犯罪を犯すために必要な要素は3つあると考えられています。

①犯行者
②抵抗力が弱い標的
③強い監視の不存在

これはテキサス州大学のマーカス・フェルソンが提唱した「日常活動理論」と呼ばれる考え方です。イメージ図で確認してみましょう。

3要素イメージ図

同一場所に存在するこの3要素がどう機能するかで、犯行が行えるかどうかが決まります。様々なシチュエーションを説明することができるモデルです。

ここでは3つのシチュエーションを例として見ていきます。

例1:弱い標的を強い監視者が見守っている場合

監視者が守った場合
監視者が強力に標的を守っており、犯行者は手出しできません。親が子供をしっかり見守っている状況や、貴金属店で防犯カメラが機能している状況がこれです。

例2:監視者が機能していないが標的の抵抗力が強い場合

標的が強い場合
監視者がいない場合も含みます。犯行者は標的への接近を試みますが、標的の守備力が高く手出しできません。尾行するひったくり犯に対して睨みをきかせ警戒する女性や、頑丈な金庫に守られた現金がこのケースです。

例3:監視者が機能しておらず、標的が弱い場合

監視者の不在と弱い標的
事件が発生します。監視者が不在なら犯人にとってさらに好都合。仮に監視者がいても機能していなければ犯行者は逃げ切れると踏んで襲い掛かります。

もちろん、犯行者か標的の片方でも不在なら事件は起きません。 

犯罪学の基本原則の1つをご紹介しましたが、これが座間事件とどう関わるのでしょうか。次に座間事件での状況をご説明します。

座間事件の御し難さとは

座間事件はこれまでのパターンとは異なります。

被告と被害者が同意して接触する

被告が接触を望むだけではなく、自殺願望を持つ被害者自ら接近していきます。被害者の抵抗力はもはや皆無です。

街中で発生する誘拐事件と構図は似ていると言えますが、決定的に異なるのは監視の不存在。監視カメラも通行人もそこにはありません。そして被害者の「死にたい」という強い動機を利用した座間事件は、誘拐事件以上に被害者のコントロールを容易にしてしまいます。

ネット上の密室で2人きりになった被告と被害者。被害者は自分で自分を守るしかない絶望的な状況において、すでに被告のコントロール下にある。これが座間事件の御し難さです。

SNSを使った犯罪への対処法と待ち受ける困難

ここまで分析できれば、おのずと対処方法が浮かびます。

①犯行者の矯正
②標的の防衛力強化
③監視者の機能強化

おおまかに分けてこの3つが対策の軸となります。

①犯行者の矯正

第一に挙げはしたものの、最も実現困難なアプローチです。前科者への更生プログラムや犯罪企図者を生まない社会政策がこれに結びつく可能性があるだけです。

なお座間事件の被告は過去に、売春で得た金と知りながら受け取ったとして犯罪収益等隠匿の疑いで逮捕されています。この時点で更生させられるかどうか。おそらく無理です。

②標的の防衛力強化

潜在的な被害者に抵抗力を持たせて狙われにくくすることです。座間事件のような犯罪を警戒するなら、自殺願望のある人への援助が中心になるでしょう。

今では「死にたい」と検索するだけでこころの健康相談ダイヤルがまず表示されます。また、自殺が関わる事件の報道には同様の相談ダイヤルがセットになっているものが多く確認できます。

犯行者がつけ入る隙をなくす作戦です。

③監視者の機能強化

本来であればこの監視者の強化を最も重視すべきです。

人間心理という不安定なものを変えようとするには時間がかかり、何より不確実でもあります。もちろん自殺企図者へのサポートは社会において不可欠ですが、防犯システムの構築上最優先すべきは監視者の強化です。

しかしSNS等を舞台にした2者間のやり取りをすべて監視する訳にはいきません。例え特定のワードを禁止しても、表現方法が変わるだけです。

犯行者と被害者のSNS上でのやりとりが明るみに出るのは、常に事件が起きた後なのです。

現実社会においては防犯カメラの普及や機能向上、防犯パトロール活動と監視者の強化が進んでいます。

しかしこの監視者の強化の理論が通じないのがSNSを利用した犯罪。座間事件の御し難さの本質はここにあります。

 

対策すべきウィークポイントは定まっています。怠れば第2第3の座間事件が発生するかもしれません。個人でできる範疇を超えてはいますが、問題意識の共有が新たな風を起こすこともあり得るのではないでしょうか。

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