投資家、不動産王、石油王。
莫大な富を手にした人物には、スキャンダルがつきものです。
リスクを恐れず、報酬に人一倍つよく惹かれる気質はトラブルを招きます。
金のにおいを嗅ぎつけた獣の誘惑に負け、醜聞をさらすことになる人物も少なくありません。
「ウォール街最大のトレーダー」、マイケル・スタインハルト氏は、慈善家としても知られています。イスラエルのユダヤ人への手厚い支援は、大きく評価されました。
ところが彼は、古代遺物の盗掘・密売グループと関わってしまいます。
密売グループにとって、古美術コレクターでもあるスタインハルト氏は理想的な上客だったのでしょう。
結果、慈善家スタインハルト氏は自らが守っていたはずだったイスラエルの遺跡を間接的に略奪することになってしまいました。皮肉なものです。
そして最終的に、未来永劫、古美術の入手を禁じるという前代未聞の処罰を受けます。
「ヘッジファンドのパイオニア、マイケル・スタインハルト氏が7000万ドル相当の180点の盗品古美術を引き渡す」
そう題されたニュースがリリースされたのは2022年の12月。この報道の中で、彼に課された罰「古美術入手の生涯禁止」が世間に知れることになりました。
返還した180点の古美術のうち、171点は古美術密売グループの大物、ジャコモ・メディチとジャンフランコ・ベッキーナから購入したものでした。この2人は有罪判決を受けた違法ディーラーとして有名です。
スタインハルト氏と弁護士は違法ディーラーに騙されたとの立場を崩していません。あくまで盗品とは知らなかった善意の第三者であることを主張しています。
それが本当かどうかはわかりません。
しかし一連の報道で、スタインハルト氏の名誉に大きな傷がついたのは事実です。イスラエルでは彼の名をつけた美術館の名前を変えるべきとの声も挙がりました。
財を成した個人の元には、数々の誘惑がすり寄るといいます。
それはタックスヘイブンへの誘いかもしれないし、悪徳商法の広告塔かもしれないし、盗み出された金の仮面かもしれません。大変ですね。